映画化のきっかけ
「ダイ・シージエ監督は『小さな中国のお針子』よりも先にこの映画を撮りたかったのです」とプロデューサーのリズ・ファヨルはいう。監督とナディーヌ・ペロンによって書かれた脚本を前作の製作開始直前に読んだ彼女は、どんな犠牲を払っても貫こうとするこの愛の物語に感動したという。しかし小説家としてのダイ・シージエの知名度を考えて、製作出資が受けやすい前作を先に作ることを勧めたのだった。初めて組んだ仕事で、監督の人柄や、発生した問題を熟考しながら解決する粘り強さに共鳴し、お互いに尊重しあえる関係を築いた監督とプロデューサーだったが、製作プロダクション探しは難航した。すべての会社から断られて4年、最後に脚本を送ったヨーロッパ・コープから製作出資の申し入れがあった。さらにテレビ局のフランス2、監督の98年の作品“Tang, Le Onzieme”の共同プロデューサーだったカナダのロジェ・フラピエ、リュック・ヴァンダルも脚本を読んで製作を名乗り出る。こうして製作体制が固まっていった。
挑戦するキャストとスタッフ
当初、主役のリー・ミン役を依頼していたのは、『小さな中国のお針子』のジョウ・シュン。だが彼女は、周囲からのアドバイスによって依頼を断ってきた。北京で行なったキャスティングテストに現れたのは、中国女優ではなくフランス女優のミレーヌ・ジャンパノワだった。しかもフランス人の母と中国人の父を持つハーフで、緑の瞳の色は中国女性に見えなかった。監督は急きょ脚本の設定を変更し彼女を迎え入れる。「ハーフという設定に変えて幸いでした。外見のみならず、知性、文化、思想的にミックスされているということは、人に理解されず閉め出された存在で、誰よりも愛と優しさを求めるようになります。私自身、文化的に中国・フランスの二国の文化を合わせもっているからこそ理解できるのです」と監督はいう。
アン役のリー・シャオランと教授役のリン・トンフーは、中国でタブーとされている同性愛を描いたこの作品に果敢に挑戦する。「二人とも有名な中国人俳優ですが、怖れてはいませんでした。それにどうしてもいっしょに仕事をしたかった第一級の中国人スタッフも同じでした。彼らは脚本が気に入って仕事を引き受けてくれたのです」
リー・シャオランはいう。「ミンとアンはまるで子供のように火遊びをしているうちに大きな火事になってしまい、自らを焼き尽くすのです。その関係は愛にあふれ、心沸き立ち、感動的なものです」。リン・トンフーもまた「二人の女性を結ぶ関係を受け入れることができない社会の中で展開するこの物語では、恥じらいとやさしさを含んだ視線で彼女たちを描いています」と語っている。
中国語がほとんど話せないミン役のミレーヌだったが、アン役のリーとは、言葉ではなく自然にコミュニケーションがとれていったという。「無言のうちに感情で助け合え、わからないときにはシージエ監督が手助けをしてくれました」。リーもまた「不思議なことに、演技をする上で通訳を介さなくてもミレーヌとは心が通じ合いました。撮影現場ではお互いの演技がお互いの感情を引き出してくれるとずっと信じていたのです」という。
美しいロケ地、ベトナム
前作では検閲を受けながらも中国本土で撮影を許可されたが、今回はどうしても許可がおりなかったため、ベトナムを撮影地に選ぶことになった。ベトナム政府としては、この禁断の物語はベトナムではなくあくまで中国で展開しているという判断、さらにベトナム人のスタッフを起用することを条件に許可される。
ベトナム北部は中国との国境に近く、スタッフの移動もしやすかった。そして何より撮影を希望していた中国の地方と風景がよく似ていたのだ。特に世界遺産にもなっているハロン湾の風景はすばらしく、切り立つ奇岩に挟まれた中を、小舟がゆったりと下っていくシーンなど、自然が見事に切り取られている。
建物内部については、荒れ果てた寺院を完璧に修復して撮影、また植物園は樹々や奇妙な植物がすべて植えて作られた。
監督にとって、ロケ地以上に問題だったのは42日間という短い撮影日数と限られた予算だった。「アドリブの余裕はありませんでした。でも言葉の問題にも関わらず統一のとれた仕事ぶりを発揮してくれたスタッフに助けられたのです」と感謝する。“Tang, Le Onzieme”で組んだギイ・デュフォーが、ゆったりと時間が流れる田園地帯、むせ返るような植物園といった情景のなか、せつなく高まっていく愛を映し出し、見事なカメラワークを見せてくれたと監督は絶賛している。
ロマンティックな旋律に漂う異国の情景
80年代はロックバンド、90年代はスピリチュアル音楽の大ヒットを生み出して来たエリック・レヴィにとって、映画音楽の仕事は10年ぶりのことだった。しかし映像を見た瞬間、インスピレーションが湧いたという。「今回の作品では、映画の中で聞こえる中国語こそ、私にとって最高の楽器だったのです。意味がまったくわからない言葉なのに、この言語からはハーモニーやメロディが聞こえてきました」というレヴィは、中国の弦楽器や打楽器の音をサンプリングし、その響きの中に、物語が繰り広げられる異国の情景を遠く響かせている。オーケストラ音楽とコンピューター音楽を巧みに調和させて、「監督と同じように、私もこの物語を普遍的な悲劇としてとらえ、そこに流れるロマンティックな感情を主旋律にしたのです」
|